ワインにおける酸化防止剤の役割(酸化防止剤の誤解)

ワインを飲んで頭が痛くなる原因だとか、なにかと悪い意味で話題に上がる酸化防止剤ですが、多くの場合は誤解であり、ワインには必要な添加物です。酸化防止剤とはどのようなものなのかのお話です。

ワインの酸化防止剤とは?

ワインで使われる酸化防止剤は、主に二酸化硫黄で、亜硫酸塩と表記されます。
この二酸化硫黄だとか、亜硫酸塩という名前からして人体に悪影響がありそうですが、人間の身体というものは風邪をひけばウィルスを殺したり、免疫によって身体を守ったり、有害なものは分解したりといった機能が備わっていて、処理しきれる量を超えると人体に悪影響が出るといわれています。

亜硫酸塩も、多くの量を摂取すればやはり人体には毒ですが、何事も摂取する量が重要で、ごく少量であれば人体に影響がなく、ワインに含まれる酸化防止剤の量はごく微量で、法律によって厳しく規制されています。

実際に大量のワインを飲んだとして、酸化防止剤による人体の悪影響が出るより前に、アルコールによっての悪影響の方が遙かに大きいでしょう。

ただ、喘息持ちの人は反応することもあるそうなので、注意してください。

酸化防止剤はほとんどのワインに添加されている

ごく一部のワインを除き、酸化防止剤は現在販売されているほとんどのワインに入っています。

ごく一部というのは、「酸化防止剤無添加」と表示されたワインで、それ以外のワインには全て酸化防止剤が入っていると考えて差し支えないでしょう。

誤解されやすいのが、ビオワインやオーガニック、有機ワイン、無農薬、自然派ワインなどと呼ばれるもので、これらのワインは酸化防止剤無添加とは関係ありません。誤解しないようにしましょう。

酸化防止剤を添加する理由

酸化防止剤を添加する理由は主に二つあります。

一つは名前の通りワインの酸化防止、もう一つは雑菌の繁殖抑制です。

酸化による品質劣化の防止

ワインは何年も熟成させたり、抜栓してからデキャンティングなどで空気に触れさせることもあり、酸化がワインに悪影響という印象は少ないかもしれません。

しかし、ワインもブドウから出来た酒なので、酸素との結合により劣化しますが、ある程度までは劣化の前に一度美味しくなり、ピークを越えると劣化に向かっていくようです。

ただ、瓶詰めしたボトルには少量の空気しか残っておらず、酸化の程度は少ないので、どちらかというと瓶詰め前の樽やタンクでの熟成の時などのほうが、酸化防止の役割としては重要で、実際、瓶詰め後の酸化防止剤は、化学反応によって徐々に他の物質に変化し、数ヶ月でなくなってしまうようです。

雑菌の繁殖を抑える

もう一つの役割が、収穫したブドウには多くの雑菌が付いていて、通常はフィルターなどで雑菌を取り除き、残ったものを酸化防止剤で殺菌します。

ワインは通常、1年以上の樽やタンク、瓶内での熟成を経て出荷されるため、数年経っても安全に飲めるためには酸化防止剤はなくてはならないものといえます。

酸化防止剤無添加ワインとは

ここまで読んで頂ければ、酸化防止剤がワインにとって必要なものだということはわかってもらえていると思いますが、一時期、酸化防止剤無添加ワインというのが一部で流行った時期がありました。

日本のメーカーの多くは酸化防止剤無添加ワインを販売していますが、個人的には、添加物というものに過剰反応を示し、酸化防止剤を悪とするごく一部の活動家に対する体裁としてか、実のない安心感を売りとして、あまり知識のない人に売れるから販売しているものだという認識です。

日本酒で例えると、日本酒は通常、加熱処理による殺菌をして作りますが、それを行わないのが「生原酒」です。
日本酒の場合、早めに消費し、数年寝かせるといったことはごく希です(熟成させられる日本酒を作るところもありますね)。生原酒であればなおさら、低温保管でなるべく早めに飲むほうが美味しく飲めて、1日程度でも常温に置いておくことは避けた方が良いとされています。
日本酒は基本的に低温で管理し、早く飲むものというのは、品質の劣化がしやすいことと、生酒の場合は雑菌の繁殖が進まないうちにということも含まれるでしょう。

日本酒の例と同様に、ワインに酸化防止剤を入れないということは、冷蔵保管でできるかぎり早めに飲むか、ほかの雑菌の繁殖と品質劣化抑制の処理をしなければならないということです。

なので、酸化防止剤無添加ワインを作る過程には、農薬を普通より多めに使ったり、加熱殺菌したり、非常に目の細かいフィルターで雑菌の繁殖しやすい成分を除去したり(もちろん美味しさに必要な成分も一緒に除去されるでしょう)といった特殊な処理をします。

僕は普段、ノンアルコールビールというビール風炭酸飲料は飲まないのですが、酸化防止剤無添加ワインというワインとかけ離れたお酒を飲む気には全くなれません(勉強のために飲むことも必要なのかもしれませんが)。

根拠のない情報にご注意を

誰でもインターネットで情報を発信でき、あらゆるところまで拡散される今の世の中、誤った情報や、根拠のない情報も氾濫しています。以下のような酸化防止剤を悪とする根拠のない情報も多く見かけられ、多くの人がその情報を信じているのを見るたびに残念な想いでいっぱいになります。

これらの情報が間違った情報であることは明白です。先に書いたように、酸化防止剤の二酸化硫黄は、瓶詰め後数ヶ月で別の物質に変化し、飲む頃にはほとんどなくなっているのですから。

ワインを飲むと頭が痛くなるのは酸化防止剤が原因

これは非常によく見かけます。「酸化防止剤」で検索するとこれをネタにしたブログも非常に多く見つかりますが、全く科学的な根拠がなく、こういったことを書いている人は、何を情報源としているのか不思議でなりません。

前述のように、酸化防止剤は喘息の方には注意が必要です。しかし、頭痛の原因は別のものです。

ワインを飲んで頭痛がするという人の多くは、「白ワインなら大丈夫だけど赤ワインは頭痛がする」と言いますが、この時点で酸化防止剤が原因でないのはわかります。白ワインにも酸化防止剤は入っているからです。

恐らく、ワインを飲んで頭痛がする原因は、血管の拡張するヒスタミンという成分によるものだと言われています。花粉症で良く耳にするアレです。

ヒスタミンは赤ワインでよく行われる、リンゴ酸を乳酸に変えるマロラクティック発酵という工程で多く発生します。なので、赤ワインでも頭痛がする赤ワインと、しない(比較的少ない)赤ワインがあると思われます。

赤ワインに多く含まれるポリフェノールは花粉症の症状を緩和すると言われていますが、花粉症の原因のヒスタミンも含まれているというのはなんか複雑な気分ですね。(^^;

この辺の詳しいことはこちらのブログを参考にして下さい。

ワインで頭痛?原因は多分亜硫酸塩ではない – WSJ

ちなみに、ヒスタミンが頭痛の原因の場合、抗ヒスタミンの鼻炎薬を飲むと良いそうですが、万年花粉症の私は頭痛もしないし試すことが出来ません。(笑)

高いワインは(酸化防止剤が入っていないから)二日酔いしないけど安いワインは(入っているから)二日酔いする

これに関してはなんとも言えないところがありますが、僕の考えは「高いワインほど味わってじっくり、時間をかけて飲む」ということです。

つまり、安いワインはガブガブ飲んで、高いワインはチビチビ飲む。結果的に飲む量が違うので安いワインほど飲み過ぎて二日酔いになりやすいということです。

ただ、一部の安ワイン(極端に安いワイン。特に日本の安ワイン)には、普通とちょっと違う作り方をしているものもあるかもしれません。たとえば安い国産ワインの中には、輸入した濃縮ブドウジュースを発酵させてワインにしたり、アルコールを添加して作っているものもあるようです。(詳しくは知りません)

酸化防止剤を除去する商品

一時期「通すだけで酸化防止剤を除去するアイテム」というのが話題になり、多くの人が「欲しい」、「頭痛がしなくなる!」とかコメントしていましたが、これに関してはほぼ詐欺ですね。

頭痛に関しては前述の通りなので、このような商品を使っても頭痛すると思います。

そうでない人はなんで欲しいのかがわかりませんが、最初に書いたように、酸化防止剤は飲む頃にはほとんどなくなっています。そもそもないものを除去する効果があるように販売することは詐欺ですよね?

酸化防止剤はワインを美味しく飲むために必要なもの

ということがおわかり頂けたでしょうか。

酒好きは酒の欠点さえも肯定するということはあるかもしれませんが、多くのソムリエやワイン好き、ワインメーカーは酸化防止剤が悪者にされていることを嘆いていると思います。

酸化防止剤云々を気にする前に、アルコールの取り過ぎを気にした方がよっぽど建設的だと思いますがいかがでしょうか。